スプリングバックの測定、軽減、コントロール、および見込み補正

(5月/6月版のSTAMPING Journal®でこの記事の英語版は出版されています。”Die simulation: Measure, mitigate, control, then compensate for springback” https://www.thefabricator.com/stampingjournal/article/stamping/die-simulation-measure-mitigate-control-then-compensate-for-springback) この記事の日本語のフルバージョンは、Japan Formingサイトの最新のブログ投稿にて閲覧可能です。こちらから閲覧してください: japanforming.com/寸法精度を確保したプレス成形を実現/ デジタル・エンジニアリングにより寸法に準拠したプレス成形を実現 仮想空間におけるデジタル・エンジニアリングによるスプリングバックの測定、軽減、コントロール、および見込み補正の効果的な検討方法をご紹介します。デジタル・エンジニアリングで問題を解決したものを、デジタル・マスターとして実際の現場で忠実に採用し実行することで、現実世界でのトライアウト・コストを大幅に削減し量産開始までのリードタイム削減に大きな効果をもたらします。また工程のロバスト性を確保しているため一定の品質で安定した製造を実現します。   作成者: Kidambi Kannan 数十年にわたり培われたスプリングバックの成功事例が、軟鋼材および低合金高張力鋼(HSLA)のプレス成形における寸法精度の確保に効果を発揮してきました。しかし、ここ20年ほどは、超高強度鋼材(AHSS)および高強度アルミニウム合金の新たな等級の登場によって、それまで蓄積された知見や経験が必ずしも通用しなくなってきました。バーチャル設計ツールがこれらの材料のスプリングバックの軽減および管理において中心的な役割を果たしてきましたが、効果的な応用の成功事例は明確に理解されていません。 測定、軽減、コントロールおよび見込み補正は、金型設計および工程の成功事例を網羅した系統的な方案で、寸法精度を満たしたプレス成形を実現します。これを忠実に採用し実行することで、トライアウト・コストを大幅に節減し、パネル生産を通して一定した寸法を保つことが可能であることが証明されています。本稿では、この方案の実行に不可欠な設計およびシミュレーションの成功事例を検討します。第3世代の二相鋼であるAK Steel社のNEXMET 1000等級を使ったAピラーのプレス成形工程(図1を参照)を例に、この方案の主なポイントを説明します。 図1 Aピラーの成形工程:クラッシュフォーム、トリム、再トリム、成形 測定 シミュレーションは、実際のパネルで測定されるスプリングバックの最も信頼性の高い予測をするために構築され、成熟させる必要があります。 そのためには、プレス成形の結果に影響を与えると予想されるプレス成形工程、金型、材料、潤滑のすべての側面をシミュレーションする妥協のない努力が必要です。これには、物理的なトライアウトや生産で実施されるものが含まれます。 金型条件 パッドの姿勢、バインダのギャップやスポッティング、側壁面のクリアランス、底付ブロック、フランジ鋼の進入とクリアランス、しごき、強当てなどは、生産中と同様にシミュレーションで表現する必要があります。 工程 金型の動作位置関係、バインダおよびパッドのトン数、クッション・ピンの位置、およびストローク中のトン数が、意図する設計および製造通りに定義されている必要があります。   材料 シミュレーションの材料定義には、試験が欠かせません。引張試験が一般的になりつつあり、引張状態での材料の挙動を表すのに有用です。AHSSおよび高強度アルミニウム等級のスプリングバックを高い信頼性で予測するには、圧縮試験も必要です。シミュレーションでこれらの材料で一般的に適用される引張および圧縮状態で材料は同じ挙動を示すという仮説では、不正確で信頼性の低い予測につながります(図2を参照)。 図2 引張状態での硬化は、圧縮状態での硬化とは大きく異なります 実際には、引張-圧縮試験は困難で、そのようなデータは一般的に入手できません。ただし、このようなデータは最先端材料等級での予測およびスプリングバックの管理において重要であるため、材料供給元はこの点に配慮し、今後、このデータを作成し、配布すると期待されます。   摩擦 図3 摩擦の現実的なモデリングでシミュレーション結果の信頼性が向上します 成形工程中の摩擦は、金型の表面処理、金型とシートがコーティングされている場合はそのコーティング、使用する潤滑剤、金型ギャップ、シートと金型サーフェス間のスライド、および成形中に発生する熱に依存します。現在では、高度なモデリング・ツールが利用できるようになり、これらの要因を考慮して、摩擦条件をより正確に表現できます(図3を参照)。これにより、シミュレーション結果の信頼性がさらに高まります。 ドロー・スケーリング 一般的に、シートは最初のドロー型で十分にストレッチされます。均一なストレッチは、部品の機能性およびパネルのゆがみのコントロールに重要です。パネルがドロー型から取り出される際に、弾性回復によって成形中にストレッチされた量から微小量が失われ、パネルが縮みます。縮んだパネルは、基準トリム金型にフィットしません。 このようにフィットしないことによって、トリム・ポストとパッドの間でパネルが押し潰されます。この問題は、一般的にドロー型を拡大、つまりスケーリングすることで回避します。 パネルがスケーリングされたドロー型から取り出されるとき、パネルは基準寸法に収縮します。よってスケーリング工程は、シミュレーションで正しく考慮する必要があります。 ドローシェルのネスティング ドローシェル(スプリングバックしたドロー・パネル)をネスティングするためのトリム金型のサーフェス加工は、トリム金型で意図しない押し潰しが発生するのを最小限に抑制するために欠くことのできない金型製作におけるもうひとつの改善策です(図4を参照)。これも、シミュレーションで正しく表現し、検証する必要があります。 図4 トリム金型の表面加工でドローシェルをネストすることで、パネルが押し潰されるのを最小限に抑えます 詳細な検証 以上の詳細をすべて統合し、全工程のシミュレーションを成熟させ、最終決定する必要があります。 最終バージョンのシミュレーション結果は、すべての成形性および品質要求を満たしている必要があります。 シミュレーションの最終決定の一般的な手法は、手動調整と反復です。初期シミュレーション結果から開始して、金型および工程条件を経験に基づいて手作業で修正し、新たなシミュレーション結果を作成します。この「検討-修正-再計算-結果待ち」のアプローチは、時間がかかることが多く、また、最終の金型および工程の最適な結果が得られるとはかぎりません。今日では、より系統的で効率的なアプローチを可能とするテクノロジーを利用できます。これを使って、すべての妥当なシナリオを検討した上で、最適なシナリオを特定できます。 […]

最新の摩擦モデルが中国の大手金型メーカーの5つの部品を救済

TriboFormソフトウェアを利用したドア・インナー部品のしわ予測 この事例記事では、中国の大手金型メーカーがプレス成形シミュレーションにTriboForm摩擦モデルを適用した例を紹介します。近頃、初期プレス成形シミュレーションにてしわを予測できず、トライアウトや生産で不具合が発生していました。AutoFormおよびTriboForm FEM Plug-Inを組み合わせることで、実部品に発生するしわの予測を、シミュレーションでどのように改善できたかをご紹介します。 以下は、大手OEMや一次サプライヤを顧客にもつ世界的に名高い中国のある大手金型メーカーの事例です。この金型メーカーは、アウディやフォルクスワーゲンなど中国の国内外の顧客が求める高い品質基準を満たす精緻な金型を提供しています。最近、デフォルト設定を用いたプレス成形シミュレーションでは、しわの可能性がある複数の領域が示されましたが、値が非常に小さく、現実にしわが発生するリスクは非常に低いと思われました。そのため、そのデータをもとに金型を製作し、トライアウトを行いました。しかし残念ながら実際に生産した部品は、デフォルト設定のシミュレーション結果とは一致していませんでした。複数のOEMから受注したドア・インナーなど多数の部品にて、深刻なしわの不具合が生じたのです(図1)。プレス成形シミュレーションでは、精度面で「安全」と予測されているにもかかわらず、部品の特定の場所でしわが繰り返し発生しました。図1: 部品のしわ 金型メーカーの李氏は、「製品品質の観点から、このしわは重大な問題であると考えました。まず、入力パラメータを確認し、ブランクのサイズとバインダ荷重を検討しました。すべて適切のようでした。次に、金型の検収条件をもとに、実際の生産方案に準じてシミュレーション工程でも金型のギャップを0.5 mm拡大しましたが、定数摩擦モデルを使ったシミュレーションでは、トライアウトのような重大なしわを示しませんでした。」その一方、金型工場ではトライアウトをシミュレーションと関連付けることなく、これまでの経験をもとに不具合に対応するしかありませんでした。たとえば1個取りのドア・インナーの場合、ドロービードを追加することで、十分な抵抗が発生し、しわの不具合を解決できました(図2)。 これは上手く行きましたが、CNCマシンで金型を再切削しなければならず、これには高いコストが伴いました。 図2: ドロービードを追加することで十分な抵抗が得られ、しわの不具合が解決これは複数のOEMから受注した多くの部品で何度も発生する不具合であったため、金型メーカーでは根本原因を調査するためのプロジェクトを立ち上げました。以前の調査では、摩擦および潤滑条件が製品品質に影響を及ぼす重要な要因であり、特定の材料や部品はトライボロジ条件に対する感度がきわめて高いことが示されました。またシミュレーションの精度を高めるには、シミュレーションでは現実に即した設定をもとに、トライボロジ挙動をなるべく詳細に記述することが重要です。よって、この金型メーカーとオートフォーム・チャイナ社が提携し、TriboForm摩擦モデルを適用した新たなシミュレーションを実行しました。プレス成形シミュレーション・ソフトウェアにTriboFormモデルを併用することで、旧式の一定クーロン係数を、接触面圧、速度、ひずみおよび温度の関数を伴う4次元の摩擦モデルに置き換えることができます。また、TriboFormを使用することで、トライボロジに関わる材料データに対応した摩擦カードのデータベースを利用できるため、摩擦係数を可視化することができ、また結果をエクスポートしてプレス成形シミュレーションに適用することもできます。この5つの部品に対するアプローチは、より詳細な摩擦および潤滑条件の記述を、プレス成形シミュレーションに適用することでした。この調査では、トライボロジの検査や使用する材料に合わせた調整などは行わず、デフォルトで利用できるライブラリからTriboForm摩擦モデルを適用しました。下図は2つの部品について、TriboForm摩擦モデルを適用した場合と適用しない場合のシミュレーション結果を示しています。図3: クーロン摩擦モデルの適用時にはしわが予測されず(左)、TriboForm適用時のシミュレーションでは2ヶ所で1.0 mmのしわが予測されました(右)図4: クーロン摩擦モデルの適用時にはしわが予測されず(左)、TriboForm適用時のシミュレーションでは0.64 mmの局所的なしわが予測されました(右) オートフォーム・チャイナ社のクリストフ・ウェーバーはこう説明しています。「当社のお客様とオートフォーム社によるこの共同プロジェクトによって、摩擦こそが、複数のお客様から受注した多くの部品に繰り返し発生するしわの根本原因であることを突き止めました。TriboFormの高度な摩擦モデルを適用して実際の挙動をシミュレーションすることで、トライアウトや量産と同等に信頼性の高い予測が可能となり、5つすべての部品のしわを解消することができました。それも材料や摩擦試験を一切追加することなく、TriboForm標準ライブラリのトライボロジ・ファイルを適用するだけで、すべて実現できました。これは、デジタル・エンジニアリングの段階にて、再設計の労力をかけることなくしわを解決でき、また実際のトライアウトでも、コストがかかる金型の再切削を回避できることを意味します」。事例:トライアウト・ループは1回につき約37,900元(60万円)のコストがかかります(再設計にかかる人件費1日あたり1,000元(16,000円) x 1日、再切削費用1時間あたり300元(4,800円) x 3日、金型のスポッティングおよびトライアウト1日あたり人件費500元 (8,000円) x 3名 x 3日、および1時間あたり150元(2,400円)のトライアウト・プレス機のコスト)。 このプロジェクトでは、5つのドア・インナー部品にTriboForm FEM Plug-inとそのトライボロジ標準ライブラリを適用し、各部品のトライアウト・ループを1回削減した結果、790%の投資利益率(ROI)が実現しました。 コスト削減 5つの部品 x トライアウト・ループ1回の削減 x 37,900元(60万円)/削減したトライアウト・ループ = 189,500元(300万円)のコスト削減 ROI 189,500元のコスト削減 / 24,000元の投資 = ROI 790% すべてのドア・インナーおよびドア・アウターのプロジェクトにおいて、包括的な摩擦モデルを作成するTriboForm Analyzerと4つのTriboForm FEM Plug-inを使いシミュレーションを行えば、この金型メーカーでは800%以上のROIも達成可能です。 コスト削減 年間10個のプロジェクト x (4つのドア・インナー + 4つのドア・アウター) x 37,900元 […]