Message from AutoForm Japan ビジネスコンサルタント

May 2026
Share this post

【はじめに:モノづくりの欲求に、ゴールはあるのでしょうか】
モノづくりの現場を見渡せば、いまやCADやCAM、CAEの活用は「当たり前」の風景となりました。さらには、AIを活用した自動設計や最適設計といった技術も、もはや未来の話ではなく、現実味を帯びた技術として語られています。
企業にとって、「より安く、より速く、より良い商品を提供したい」という欲求は、いわば宿命のようなものです。その歩みが止まることはありません。しかし、ふと立ち止まって考えてしまうことがあります。

「いったいどこまで行ったら、私たちは満足するのだろうか」と。
実は、私がこの世界に足を踏み入れた1980年代後半においても、現場にはまったく同じ欲求が渦巻いていました。当時の自動車業界は、燃費向上のための「軽量化」と、衝突安全性のための「高強度化」という二つの課題に直面し、ハイテン(高張力鋼板)やアルミ材の導入が真剣に検討され始めた時代でした。

それまでの経験が通用しない新しい材料、今までにない複雑な部品形状。それらに対して「本当に形にできるのか」という不安を払拭するための検討道具として、プレス成形シミュレーションがようやく産声を上げたばかりでした。

【黎明期の熱狂と、30年以上変わらない「目的」】
1990年、理化学研究所と大阪大学の呼びかけで「板成形シミュレーション研究会」が発足しました。国内の自動車・鉄鋼・金型メーカー、そしてコンピュータ各社が企業の垣根を越えて集まった、日本初の業界横断的な挑戦でした。私もその熱気の中で、Fortranの緑色の文字が浮かぶ画面と格闘しながら、数式が現実の板の動きに変わる瞬間に魅せられた一人です。

あれから35年以上が経過しましたが、驚くべきことに、プレス成形シミュレーションの根本的な目的は当時と少しも変わっていません。それは、「金型設計の段階で問題を見つけ、トライ回数(試作修正)を減らすこと」です。

目的は同じでも、環境は劇的に変化しました。要求性能は高まり、人手は減り、人件費は上がり、市場のトレンドは瞬く間に移り変わります。この過酷なビジネス環境において、かつてのような「勘と経験」に頼った調整だけでは、もはや太刀打ちできないのが現実です。

【疑念から確信へ:「日本で本当に受け入れられるのだろうか」と感じていたあの日】
私は2009年にオートフォームジャパンに入社しました。オートフォームジャパンは2007年、日本におけるサービスおよび販売拠点として開設された会社です。実はその開業を知ったとき、私は別の会社に在籍しており、小さなニュース記事を見て、「日本で本当に受け入れられるのだろうか」と感じたのを覚えています。

当時の私の理解では、AutoFormの手法は有限要素法(FEM)を基礎としていますが、一般的な手法とは少し異なる、独自性のあるものでした。アカデミックな厳密さを重んじていた私からすれば、「そうした手法で、日本のシビアな現場の要求に応えられるのだろうか」という先入観があったのです。

ところが、その疑念は入社後に打ち砕かれました。複雑な部品の成形性を検討する際、従来のソフトでは丸一日以上かかっていた計算が、AutoFormではわずか数十分程度で完了し、しかも現場のベテランが「ここが割れるぞ」と予見していた箇所を、正確に、誰にでもわかるビジュアルで示していたのを目の当たりにしたからです。さらに、国際的なベンチマークで実物との高い一致が示されてきたこともあり、私はこれを「現場で使える道具」だと確信するようになりました。

シミュレーションの本質は、「完璧な計算結果」であること以上に、モノづくりの現場で、正しい判断を、正しいタイミングで下すための共通言語であるべきだ。そう気づいたとき、私の見方は、「これは現場に最適な道具だ」という確信へと変わっていました。
補足ですが、「完璧な計算結果」を得るためには“完璧に現実と同じ”加工条件を入力データとすることが必要です。しかし、“完璧に現実と同じ”加工条件の取得は解析を行うタイミングでは取得するのが難しいのが現実です。つまり、「完璧な計算結果」を達成するのもとても難しいと言えるのです。

【設計と生産の「壁」を壊す:サイマルエンジニアリングの真髄】
モノづくりにおいて、避けて通れないのが「製品設計」と「生産設計」の衝突です。

デザイナーや製品設計者は、最高の性能とスタイルを追求します。一方で、生産技術者は、安定して、安く、効率的に作ることを考えます。この二つの要件の違いから生まれるぶつかり合いは、現場における永遠の課題です。

これまでは、設計が固まった段階で生産技術にバトンが渡され、問題が発覚しては差し戻すというサイクルが繰り返されてきました。これを解決するのが、設計の早い段階で生産要件を取り込む「サイマルエンジニアリング(SE)」です。

しかし、今の時代に求められるSEは、単に「この形状では作れないから変えてほしい」と伝えることではありません。生産技術側がシミュレーションを駆使し、「どの箇所を、どのような形状に変更すればよいか」という具体的で適切な設計変更案を、根拠を持って示すことです。これができて初めて、設計と生産技術のやり取りはスムーズになります。

「単なる批判者」ではなく、「具体的な解決策を示す存在」へ。これこそが、AutoFormという道具を活用して実現していただきたい、生産技術の新しい役割だと考えています。

【バーチャル試作と「不確実性」のコントロール】
SEの段階で問題を潰し込むことは、デジタル空間での「バーチャル試作」そのものです。
実際の金型を削る前に、コンピュータ上で何通りもの試作を行い、最も問題が起こりにくい工法を選定します。さらに最新の技術では、材料の硬さのばらつきや加工条件の揺らぎまで統計的に考慮し、量産時の不良発生確率を事前に予測する、いわゆるロバスト設計も可能になっています。

かつては「量産してみなければわからない」と言われていた不確実性も、少しずつ事前に見通せるようになってきました。シミュレーションは今、「問題が起きるかもしれない」ことを先に知るための道具から、「どうすれば安定してつくれるか」を考えるための道具へと進化しつつあります。

この考え方は、プレス成形だけでなく、自動車ボディの組み立て解析にも広がっています。溶接による熱ひずみ、組み立て精度、生産ライン全体での成立性など、工程全体を見渡しながら、使えるところから実務に落とし込んでいく。その積み重ねの先に、デジタルツインの世界があるのだと思います。

【AI時代】
最近では、AIや自動最適化という新しい波も押し寄せています。最新技術をキャッチアップするのは大変ですが、Fortraと格闘していた頃を知っているからこそ、今の技術の進化には素直にワクワクします。

あの頃、何日もかけて試していたことが、これからはもっと速く、もっと広い視点で、もっとわかりやすい形で検討できるようになるかもしれません。ベテランの勘をAIが裏づけし、若手がスピード感を持ってSE検討を進め、現場ではタブレット端末を使って瞬時に不具合対応ができるーーーそんな世界が現実になる日も遠くないのかもしれません。

そして、そうした時代になっても、エンジニアの勘や経験が無駄になることはないと思います。むしろ、これからのエンジニアには、これまで以上に早い成長が求められるのではないでしょうか。そうした中で、バーチャル試作の経験は、従来なら長い年月をかけて現場で培ってきた知見の一部を補い、成長を加速させる役割を果たすかもしれません。これからの世代は、いわば「バーチャル試作ネイティブなプレス・エンジニア」になっていくのかもしれません。

【おわり:技術のバトンをつなぐ】
「いったいどこまで行ったら、満足するのでしょうか?」

冒頭の問いに、今の私はこう答えたいと思います。「安く、速く、良いもの」への欲求に終わりはありません。しかし、その終わりなき追求のプロセスこそが、私たちのモノづくりをより高みへと押し上げていくのだと思うのです。

新技術は、私たちが積み上げてきた経験を捨てるためのものではなく、それを何倍にも加速させるための強力なブースターです。
私たちはこれからも、皆さまに寄り添いながら、技術の本質を見失うことなく、お客様とともにモノづくりの未来を考え続けていきたいと思っています。

AutoFormをもっと使い倒して、あるべき姿のモノづくりを目指しましょう!

瀧澤 堅
1986年、プレスメーカーに入社。
1990年代には同社と国立研究機関との共同研究に従事し、理論基盤を確立。その成果をもとに博士(工学)を取得。
その後は、プレス成形シミュレーション分野における研究開発の経験を生かし、実務現場においてシミュレーション技術の導入・定着・活用支援を一貫して担当。
2009年にオートフォームジャパンに入社。
自動車関連の製造業ユーザーに対し、長年にわたり技術支援業務に従事。
現在はビジネスコンサルタントとして、CAE活用による開発プロセス改革、デジタル化推進、意思決定高度化を支援。
ホワイトボディ(BiW)およびプレス部品の設計・生産プロセス改革に関する業務をリードしている。

In this issue

In this issue​